ステーブルコイン(Stable Coin)の先駆者Tetherの研究(1)

最近、仮想通貨の相場が乱高下している際にも、資産価値の保全が可能である点に直目され、いわゆるステーブルコインが注目されている。これが普及すると、仮想通貨市場で必要とされる流動性と安定性の確保につながるとされている。また、日本国内においても、いわゆるステーブルコインの取り扱いに関する、金融庁からのコメントが報道されている。そのようなステーブルコインの草分け的存在として、米ドルにペッグされていると主張する暗号通貨、Tetherがよく知られている。

Tether社によると、各TetherトークンはTether社の保有する準備金としての1米ドルによって裏付けられているとしている。しかし、現在、Tether社のそのような主張は、額面通りに受け取られていない。Tetherトークンを裏付けする米ドルの存在が疑問視され、さらに、Bitfinexが、Bitcoinの価格を引き上げるためにTether社を利用しているという疑惑さえある。それでも、Tetherトークンの実際の機能に対する理解を深めると、これらの疑問や疑惑の一部は、解消されるかもしれない。例えば、Tetherの機能を分析すると、Bitfinexは、Bitcoinの価格をTether経由で支えることができないことが明らかになる。

<Tetherトークン(USDT)に向けられた疑惑>

既述のように、Tetherトークンがいわゆるステーブルコインとして機能するためには、USDTという名前(シンボル)の暗号通貨として取引される各Tetherトークンを1米ドルでバックアップする必要がある。 したがって、Tether社は、全てのTetherトークンの基礎となる部分を準備金として保持する必要がある。 彼らのホワイトペーパーで、Tether社は定期的な監査を行い、Tether社が必要な額の米ドル資金を保有していることを示すことを約束している。しかし、同社は2017年3月以来、完結した監査の結果を公表していない。Tether社は2017年9月に監査結果を公表したが、

その結果を報告した書類は、当時の監査人であるFriedman LLPの内部メモという類のものだった。さらに、同社が、今後、監査結果を公表する見込みは無いといえる。というのも、同社とFriedman

LLPとの関係が2018年1月に解消され、その後、Tetherが新たな監査人を未だ取得していないと言われているからである。

昨年、2017年11月上旬に公表され、世界各国の指導者や富裕層が不透明な資産運用や税逃れを行っている実態を明らかにした「パラダイス文書」でリークされた事項には、世界的な大手暗号通貨取引所であるBitfinexと、外面的にはそれとは独立であるTether社とは、同じ管理チームによって運営されていることが含まれていた。

Tetherトークンが発行される際に、その発行枚数を見ると、そこには奇妙な事実が存在している。例えば、2018年3月18日に、Tether社が発行したTetherトークンの枚数は、きっかり、250,000,000枚だった。すなわち、極めて切りの良い発行枚数であって端数の無い枚数だったのである。もし、不特定多数のTetherトークンの購入者からの需要に基づいて発行枚数が決定されているとするなら、上記のようなゼロが7桁も並ぶような発行枚数が発生することは、有り得ないことと言うべきである。上記のような発行枚数のTetherトークンは、どのような需要に基づいたものなのか。その枚数というのは、BitfinexのWalletに送られた枚数と等しかったのだ。このように、Tetherトークンの発行枚数の推移に基づいて判断すれば、Tetherのホワイトペーパーで使用されている「顧客(customer)」という言葉に該当する者は、現時点ではたった一人しかおらず、それはBitfinexをおいて他には居ないと見ることができるのだ。

本年1月に、ネット上に匿名で公開されたレポートには、新しいTetherトークンが発行された後、それがBitfinexの財布に送られると、ビットコインの価格が概ね上がっていたことが示された。

このレポートはさらに、Tether社は、暗号通貨取引以外のビジネスプロセスを通じて、新しいTetherトークンを継続して発行し得る程に米ドルを獲得する資本力を獲得している可能性は非常に低いと判断している。すると、Bitfinex と結託したTether社は、市場動向を見て、発行できるはずもない量のTetherトークンを発行し、それをBitfinexに回してビットコインを購入しビットコインの価格を引き上げてきたのではないかという疑義が生まれる。

テキサス大学のJohn GriffinとAmin Shamsは、TetherトークンとBitcoinブロックチェーンの両方のデータを分析し、Tetherトークンが実需に応じて発行されてきたのか、それとも、実需とは関係なく市場に投入されたのかを明らかにする分析結果を発表した。 彼らの結果は、ビットコインの価格がある水準に到達する度にTetherトークンが発行されており、結果として、ビットコイン価格をサポート乃至安定化させてきたことを示唆している。

以上のような観測に基づき、現在、 Bitfinexは、ビットコインを購入するためにTetherトークンを不正に取得してビットコインの価格を引き上げてきたという疑惑が持たれている。

<Tetherトークン(USDT)はどのように機能しているのか>

・Tetherトークン(USDT)の取引所(Exchange)間における流通

Bitfinexのユーザーは、Tether社からトークン(USDT)を直接購入する代わりに、米ドルを使用して取引所であるBitfinexからUSDTを購入することができる。 しかし、USDTは、Bitfinex自体で取引するために使用することはできないことになっている。つまり、

Bitfinexは、ユーザーにUSDTの引き出し専用オプションのみを提供している。まず、 Bitfinexは、自身の米ドルの残高を用いてUSDTを購入する。 BitfinexのユーザーがUSDTの引き出しオプションを使用すると、BitfinexウォレットのUSDTの残高が減少する。

言い換えると、Bitfinexの顧客がUSDTを購入しようとすれば、Bitfinexの顧客はTether社から直接購入するのでなく、Tether社の「顧客」であるBitfinexからを購入することになる。新しいUSDTの発行は、Bitfinexの財布が空になり、ユーザーに販売できるUSDTが無くなるときに発生する。 その際、テザーの銀行口座にはBitfinexが拠出した米ドル資金が預けられており、それに基づいてUSDTが発行される。 すなわち、USDTは、実質、Bitfinexが作り出しているものなのである。

BitfinexのCTO(最高技術責任者)であるPaolo Ardoino氏は、インタビューに答え、BitfinexはTether社の直接の顧客であり、現在はTetherの仕組みに出入りするための唯一のゲートウェイであると認めた。 Ardoinoによると、BitfinexとTether社は、Tetherトークン(USDT)の購入を処理する銀行の負担を軽減するため、2017年後半にこのような運用形態を確立した。 Ardoino氏は、同社は、近い将来にTetherの仕組みに最大20のゲートウェイを提供することを計画していると付け加えた。具体的には、

これらのゲートウェイを構築するため、Tether社は、新しいコンプライアンス監督責任者を雇用し、新しい顧客(ゲートウェイ)の参加のために、Tetherの仕組みの運営に必要なコンプライアンス・プログラムを提供することにしている。

Tetherトークン(USDT)がBitfinexから取り出されるたびに、USDTは、Binance、Bittrex、およびKrakenなどのUSDTをサポートする他の暗号通貨取引所に転送される。

これらの取引所においては、USDTは他の暗号通貨と何ら変わることなく取引される。これらの取引所では、USDTに料金を科すことなく上場を許しており、さらに、USDTは、取引所ではなく取引所のユーザーが主に所有するものだが、取引所も、取引手数料をUSDTで受け取ることにより、保有している。すなわち、USDTは、各取引所における取引手数料の課金手段として機能しており、それがUSDTの流動性の源泉ともなっている。

そして、Bitfinexは現在USDTの唯一のゲートウェイとして機能している。

・Tetherトークン(USDT)と米ドルとの交換

Tetherトークン(USDT)が、Bitfinexでのみ購入可能であることは、Bitfinexが、USDTを通じて法定通貨(米ドル)の預金又は引き出しをするための、唯一のゲートウェイであることを意味する。そして、そのことの重要性は、十分に理解されていない。

Bitfinexが、USDTと法定通貨との交換のためのゲートウェイとして機能するためには、Bitfinexが銀行決済にアクセスする必要がある。

 2017年3月、Wells FargoはBitfinexとTetherに対するコルレス・バンクとしての関係を終了したが、 Bitfinexは、そのような銀行との関係の詳細をオープンにしてこなかった。このような透明性の欠如が、BitfinexとTether社を取り巻く論争をさらに加速させた。

その後、2018年5月24日に、BitfinexとTetherがプエルトリコのNoble

Bankで銀行口座を保有し、さらに、Bitfinexは、パナマに本拠を置く金融機関Crypto Capital Corpと提携し、Wells Fargoから切り離された後も、法定通貨の預金・引き出し業務ができる体制を維持していると、Bloombergが報じている。

現在、登録済みのBitfinexユーザーは、Bitfinexに米ドルを入金し、預金を行うことができる。Tetherトークン(USDT)を引き出しオプションとして選択すれば、ユーザーは1米ドルに対して1USDTを得る。そうすることで、ユーザは、BitfinexからUSDTを購入することになる。逆に、ユーザーがBitfinexにUSDTを入金すると、同様に1USDTごとに1米ドルが交換される。

実質的に、登録ユーザーはTetherトークンをBitfinexに販売することで、Tetherトークンを米ドルに引き換えている。このような取引であれば、USDTは引き出しオプションとしてのみ利用可能であり、Bitfinex上でUSDTを他の通貨と交換取引できないから、Bitfinex上でUSDTを使用してビットコインの価格を操作するということ、原理的には出来ないことになる。

しかし、この結論は、Bitfinex上で販売されたUSDTを、他の場所でビットコインの買い支えに用いるということを否定するものではない。

GriffinとShamsは、前述の論文で、Tetherトークンを他の取引所に移動し、これらの取引所でのビットコインの価格を安定させるために使用された方法を記述している。

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